映画レビュー 演技の技術

映画『ジョーカー』でのホアキン・フェニックスの演技が凄いワケ

皆さん、ジョーカーと聞いたらどんな役者を思い付きますか?

 

数年前なら『ダークナイト』でジョーカーを演じたキース・レジャーを挙げる人がほとんどだったでしょう。

 

ところが2019年、映画『ジョーカー』が公開されてからは、ジョーカー=ホアキン・フェニックスと考える人が増えたのではないでしょうか?

 

その理由は、作品のすばらしさはもちろんの事、ジョーカーを演じるホアキン・フェニックスの演技が超絶素晴らしかったという以外に他ありません。

 

そこでこの記事では、どうやってこの作品が生まれて、ホアキン・フェニックスがあのジョーカーの演技をどう生み出したのか?

 

またこういったリアルな演技をするには、どういった過程を踏めばいいかを役者目線で解説していこうと思います。

 

 

 

映画『ジョーカー』作品について

監督キャスト

スタッフ

監督:トッド・フィリップス

(監督作品:ハングオーバーシリーズやアリースター誕生(レディーガガ主演)等)

脚本:トッド・フィリップス、スコット・シルヴァー(脚本作品:ザ・ファイター等)

キャスト

主演:ジョーカー(アーサー)=ホアキン・フェニックス

マレー・フランクリン=ロバートデニーロ

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あらすじ

 

ゴッサムシティは高層ビルが立ち並ぶ、経済都市である。

 

しかし、凶悪な犯罪者やマフィアが存在する、超犯罪都市でもあった。主人公のアーサーは、人を笑わせるコメディアンを目指す傍ら、ピエロに扮して看板持ちなどのバイトで日銭を稼ぎながら、母一人子一人で決して裕福ではない日々を送っていた。

 

ピエロに扮し閉店セールの看板を掲げ、路上で踊けたパフォーマンスをしていると、近所の悪ガキどものいたずらで、看板を奪われ、壊され、けられるなどの暴行をうける。

 

そんな不運に見舞われた翌日、アーサーは仕事の同僚から「自分の身は自分で守るように」という理由で拳銃を譲り受ける。

 

しかし、看板が戻ってこないという理不尽な理由で上司からは首を宣告されてしまう。

 

アーサーには一つの障害があって、昔負った頭のケガが原因で、感情とは無関係に突然”笑い”がこみあげてきて、一度出てしまうと自分で全くコントロールが出来ません。
しかもその「笑う」症状は時と場所を選ばないのです。

 

そんな障害やそのがりがりな風貌も相まって、他人から少し避けられるような存在でありました。

 

そんな境遇のアーサーは、”小児科にてピエロの格好でのパフォーマンス”をこなす最中、誤って護身用で持っていた拳銃をあろうことか子供や看護師の目の前で落としてしまうのです。

拳銃を持ってパフォーマンスをしていたことが上司にばれて、彼はまた仕事をクビになってしまいます。

 

その日の帰り道、ピエロの格好のまま地下鉄の車内で落ち込むアーサー。

 

その目の前で“一人の女性に絡らむ若い男性3人“という場面に遭遇。アーサーは何もできず見て見ぬふりをするが、そんなときに限って持病の”笑いの発作”に襲われるアーサー。

 

若者三人は笑い転げるアーサーをみて、女性からアーサーに標的を変えます。

 

ぼこぼこにされ、追い込まれ、窮地に立たされたアーサーは手に持った拳銃で…

 

というようなお話です。

 

映画の重要ポイント

この作品では

監督が特にこだわったのは、舞台設定です。

『ジョーカー』撮影するにあたって、監督と脚本家やスタッフたちと話し合い、バットマンが登場する”ゴッサムシティ”を細部まで細かく新たに作り込まれた。そのためこの作品ならではの新たなゴッサムシティを生み出している。

 

  • 主人公アーサーが住む地区
  • アーサーが訪れる精神科医との面談する市の施設がある地区
  • 仕事場の地区
  • ゴミで埋め尽くされた地区

など細かく区分けして、それぞれの地区で細かい設定が作られています。

 

そのゴミの地区で捨てられているゴミに至っては、どこから捨てられたごみなのか?というところまでこだわったとのこと。

 

そして主人公のアーサーが母と暮らす地区は、“勾配が激しい坂道や階段が多い“という設定も監督やスタッフが考えて生み出したものだ。

 

あの階段でジョーカーが躍る(…というより舞を舞っている)有名なシーンが生まれたのも、その設定があったからこそ。

 

映画の良かった点と悪かった点

この映画の良かった点は、ホアキン・フェニックス演技に尽きる。

 

一度目の映画館での鑑賞では、「悲しい」「辛い」という感情しかなかったが、二度目の鑑賞で改めてみると、細かい演技に脱帽しっぱなしだった。

 

どう見ても演技とは思えないリアルな描写。

 

アーサーが持つ狂気の部分が徐々に顔を出していく様が、丁寧にそしてリアルに演じられている。

 

また、きちんと未来のバットマンへ続くストーリーも描かれているのである。

 

特に最後のシーンをどうとらえるかで、この映画全体の解釈が変わってくきます。

 

このあたりは、見た人の解釈によるところなのですが、自分の場合はあの最後のシーンは彼の未来を描いていると思います。

 

そうしないと、想像の中の想像が出てきてしまう(近所に住む女性に関して)ので…

 

リアリティのある演技はどうやって生まれた?

3D映像

あのリアリティー溢れる、悲しみと狂気を混ぜ合わせた演技はどうやって生み出されたのか?

 

まず初めに彼が行ったことは”減量”です

ホアキン・フェニックスはジョーカーを演じる上で”一ヶ月でー24㎏”体重を落としています。

そしてこの過酷な減量こそが、ジョーカーを演じる上でとても重要な役作りになったのです。

どういうことか?

急激な体重減少によって精神面と心理的に大きな変化をもたらしたのです。

 

プロボクサーの減量トレーニングが「体のキレ」を良くすることを群馬大などの研究グループがMRI(磁気共鳴画像化装置)検査で確認した。減量により、脳内の運動に関する回路が増強されたため。4月27日付で英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。

引用:yahooニュースより

 

減量によって脳内に何かしらの変化があったのかもしれません。

脳に影響を及ぼすほどの役作りをしていたという事です。

 

減量に成功したホアキン・フェニックスはアーサー(ジョーカー)に生気を吹き込むためにその空腹と、精神状態を利用したのです。

 

そしてジョーカーの代名詞といえば【笑い】ですよね。

この【笑い】は、実際に情動調節障害(不適切で制御不能な笑いを特徴とする障害)を患う患者の動画を参考にしたそうです。

情動調節障害(じょうどうちょうせつしょうがい、Pseudobulbar Affect; PBA)は非自発性の情動発作を特徴とする神経性障害の一つであり、多くの神経変性疾患頭部外傷などに併発して出現する。患者は発作の出現や感情変化を自覚することもあるが、その多くは制御困難であり、エピソードはしばしば数分に渡って継続する。単に情動反応の程度が変化するだけでなく、怒りを覚えているにもかかわらず笑い続けるなど、場にそぐわない感情表現に至ることも多い。

引用:Wikipediaより

 

実際に自分も情動調節障害の方の映像を見ました。

なるほどわかる

と思いました。

 

ホアキン・フェニックスはこの【笑い】にとても苦労したそうです。

 

あまりにも自信がなくて、なんどもトッド・フィリップス監督にチェックしてもらったって

 

実際に演技になるまで時間を要してたとのこと。

 

 

この作品において、トッド監督と主役のホアキン・フェニックスは人物設定をとことん話し合ったそうです。

 

更に、すごいのは監督からのホアキンに対するアーサーの演技指導は一切なかったとのこと。

 

つまり、ホアキン自らがいろんなものを取り込んでアーサーえお演じ切ったということです。

 

また、この作品においては事前の話し合いで答えがだ無かったシーンは、現場に立って判断しようと何をするか決めなかったこともあったようです。

 

またセリフも当日バンバン変えていったようです。

 

こんなエピソードがあります。

 

アーサーが初めて人を殺した後、地下鉄から走り逃げてトイレに駆け込むシーンがあります。

 

元々は、動転してトイレに駆け込んできたアーサーは、まず証拠を隠滅して、更に化粧も洗い落とすというのが元々の流れだったようでし。

 

しかし、撮影当日、現場にて監督と主演俳優は、全く同じ”ある一つの考え”を打ち出します。それは

 

『アーサーは、証拠隠滅なんかしない』

 

です。

 

これは、長い時間をかけて、アーサーという人物を考えてきたからこそ導き出すことのできた答えです。

 

そして生まれたのが『アーサーがトイレでダンスをするシーン=ジョーカーの誕生』なのです。

 

またホアキン・フェニックスは、アーサーを演じる上で気を付けたことがあります。

 

それは、(というか、この方法でしか演じることが出来ないと考えた。)事前に演技を決めることは一切せず、現場でその瞬間瞬間判断をして、その場で演技を生み出していった事です。

 

ホアキン・フェニックスは気づいていたのです。

 

「一番危険だと感じる演技は、先が見えない演技だ」

 

という事を。

 

もし自分がジョーカーを演じるとしたらどうするか…ホアキン・フェニックスがどうえんじているのか想像してみました。

 

TVショーでゲストとして登場するシーン。

 

まずは、ジョーカーとして舞台に立つ(これがすでにとても時間と労力を必要とするのだが…)。もちろん何も用意せずに。

 

垂れ幕の前で、自分が紹介を待つ。 頭の中は緊張と期待でいっぱい。多分そのときはもう、”自分がジョーカーだったら何をするだろう”とは当然考えていないと思う。 あの場の雰囲気、匂い、それによって自分の感情に巻き起こる変化に反応する。 感情の整理はしていない。 きっと後になって、「いつのまにか反応してた。」「そう動いていた」が正しく反応していた証拠だろう。

合ってるとか間違ってるとかは一切考えていないようにも感じる。

とにかく、ものすごい集中力であの場であの瞬間に存在しているのは間違いないと思う。

幕が開く。

自分を照らすライトの強さと、テレビカメラが一斉に自分をとらえる。

何とも言えない高揚感。

もちろん 何をするかわからないため(きっと演じている本人でさえもわかっていないはず)、周りの役者も、そしてスタッフもジョーカーの一挙手一投足に集中して対応しなければなりません。

そんな張り詰めた空気の中で、彼はあの演技を生み出しているはずです。

 

ものすごい集中力とエネルギーが必要だと思う。

 

役者をやってると、自然と体が反応する瞬間がまぁまぁあります。

ただそれをずっと維持するのは並大抵なことではありません。

でも、それがリアルな演技を生み出す秘訣であるのはゆるぎようがないことのです。

この映画は、特に編集に一番時間がかかった作品だったそうです。

その理由は、”ホアキン・フェニックスの演技が毎テイク毎テイク、全く異なったから”です。

TVショーに登場するジョーカーのシーンだけでも、たくさんのテイクが撮られていて、そのすべてでホアキンが演じるアーサーのは全く異なる動きでありました。

 

また監督が一言加えると、ホアキンは演技をがらりと変えて、新たなテイクを積み重ねていったそうです。

 

あと、かれは撮影中ケガをしていたようです。

ゴミ箱に怒りをぶつけるシーンで、彼は膝をケガしていたようです。

それでも彼は、そんなことは一切見せずに、演技をし続けたそうです。

ものすごいしゅうねんですよね。

 

個人的に好きなシーン

バス停で二人

初めの方のシーンで、アーサーが精神科医との面談のシーンで

「くるっているのは自分か?この世界か?」との問いをするんです。

自分はこのセリフがこの映画を象徴しているようなセリフだと感じました。


「前日に悪ガキどものせいで仕事を首にされ、頭のケガが原因で笑い転げる自分を畏怖の眼で見る世界」「笑いを抑えたいが、抑えることが出来なくてもき苦しむ自分」とどちらがくるっているのでしょうか

 

という彼が感じる矛盾を問いただしたセリフだからです。

『ジョーカー』が公開された当初

映写機

 

2012年にキースレジャーのジョーカーが登場した作品『ダークナイト』が公開された当時、映画上映中に乱射事件が発生しました。

 

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その事を危惧して、この『ジョーカー』公開当日は、FBIや米軍が上映中の乱射事件が起きないか警戒するという日本では考えられない状態で公開されたのです。

 

その為18歳未満は保護者同伴というR指定の映画として公開されました。

 

ところが、この映画は記録的な大ヒットとなるのです。

 

何故か?実はこの映画を見たお客さんの特徴として、リピーターがとても多かったそうで、二度ならず三度も見る観客がいたようなのです。

 

ジョーカーというキャラクターについて

ジョーカーメイク

 

まず初めに、ジョーカーという魅力的なキャラクターについて語っていきます。

ジョーカーはバッドマンに登場した敵キャラクターです。

 

ちょっとした裏話

ジョーカーというキャラクターは本来は一話でお役目ごめんの筈だったが編集上の介入により免れた。

オリジンでは、工場の科学薬品の中に落ちて、皮膚が白く漂白、紙が緑に変色、そして口が裂けてあの風貌になったと描かれている。

 

ジョーカーというキャラの最も大きな特徴は、そのポップな風貌とは裏腹に彼自身には特異な能力を一切持ち合わせてはいないという点。

 

かれは生粋のサイコパスであり、子供っぽい幼い部分と、非常に頭の切れるその猟奇的な性格、またバットマンに対する並々ならぬ執着をもつがゆえに、バットマンの宿敵という不動の地位を得ることとなりました。

 

その無邪気さと邪悪な脳細胞をもつ際立った存在が、アメリカンコミックにおいてもっとも人気を博している悪役の一人という地位も得ているのかもしれません。

 

基本的にはジョーカーはサイコパスとして描かれることが多く、犯罪の主犯格としての立場が多い。

 

”基本的に”というのは、ジョーカーの出ている作品はたくさん存在し、これまでにいろんなオリジナルストーリーが生れているのです。

 

その為作品ごとに全く異なる設定で多種多様なキャラクターでもあります。

 

この映画『ジョーカー』においても、監督のトッドがジョーカーは、ジョーカーを違った形で描きました。

 

”ジョーカーの映画を作る”というよりは、その人物を掘り下げるというアプローチで、ジョーカーを一人の人間として今までと全く違ったアプローチで描こうとしてつくられた異色の作品である。

 

アーサーという名前もオリジナルです。

 

アーサーがジョーカーという人間になってしまった原因はなんなのか?

 

その生い立ちやら境遇という視点からアプローチ、主に”自己愛”や”自我”に関して書かれた文献を特に参考にして、一年間の構想を経て脚本が作られています。

 

ジョーカーというサイコパスを描くのではなく、内面からアプローチして、どうやってジョーカーになったのかを掘り下げて書き起こして作品というわけです。

 

そして

 

アーサー=ジョーカー=自我のない自己愛者

 

という設定が生まれたのです。

 

 

この映画をぜひ見てほしい、おすすめな人

役者をされている方、演技を志している方は、ぜひともこの映画『ジョーカー』を見るべきです。

リアルな演技とは事前に動きを決めてからそれを演じるものではない。その場でライブで役者の発想で生み出すものだ。ということを証明している作品です。

もちろん大事なのは人物設定で、そのことを完全に自分の中に落とし込むことが重要であるのですが。ジョーカーでもホアキン・フェニックスは監督や脚本家と何度も繰り返し人物像などを話し合ったそうです。

作品リンク

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※撮影秘話も収録されているよ!!

演技に携わっている人には、撮影秘話をぜひとも見てほしい。こういって緊張感のある現場であの素晴らしいシーンの数々が生まれているという学びにもなります。

英語字幕も収録されているので、英会話の勉強をラれている方にもピッタリ。

 

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